絵に描いたようなモテない男。それがオレだ。ルックスは十人並み以下。内向的な性格が災いし、高校時代から会話をした記憶がある女はかろうじて母親と学食のオバサンのみ。これで唯一の趣味がインターネットときては友人すらマトモにできるはずもない。そんな人間が、初めて交際した女性から一方的に裏切られ、立ち去られたらどうなるか。普通なら事故に遭ったと思ってあきらめるだろう。
だが、オレは図らずもストー力ーと化した。女を追い回しういには“関係“まで強要してしまったのだ。事の詳細をお話しよう。
キャバ嬢がデートをOKしてくれた
大学に入って早3年。一向に彼女ができずに自宅でエロサイトばかり見ていたオレが、ー人の抜きキャバ嬢にホレたのは去年の夏だった。彼女の名は沙里奈(仮名)。鈴木杏を思わせるロリータ系の顔立ちと甘えたような話し方が、とてつもなく愛らしかった。店で1、2を争っ人気があった。ホレた理由はよくわからない。店に通ううち、自然と彼女の姿を追いかけるようになっていたというのが正直なところだ。
店に行けば必ず沙里太曹指名する。彼女もさも嬉しそうな表情でオレを見る。もしかして…。モテない男の悲しさで、勝手に妄想が膨らんでいった。
「バーカ。そりゃ、周りの客がオッサンばっかなのに、オマエだけ若いから、少しは気楽に話せるってだけだろ」
風俗仲間に、あきれ顔で諌められたこともある。今思えば正論だが、そのときのオレに、忠告をスンナリ受け入れられる冷静さがあろうはずもない。店へ日参するようになってー力月、ダメモトで切り出した。
「今週末、ヒマだったら飲みに行かない?」「ん、いいよ」予期せぬ展開に思考回路が止まる。え?いまなんて言ったの?
「だって室田さん楽しいもん」
楽しい?オレが?サッパリ現実感が得られないまま、その3日後、オレは店外デートに成功する。我が人生最良のー日だった。
来月、結婚するから
その後、4回のデートをする機会に恵まれた。いずれも、買い物につきあい、1杯飲んでから解散するのがお決まりのコース。もちろん金は全部オレが払った。色気のある事件はなにも起きなかった。が、焦りはない。なーに、そのうち最後まで…
大事に関係を続けたかった。想像もしない爆弾が落ちたのは、5回目に会った夜、酒の席でのことだ。
「あ、室田さん。アタシたちが会うのは今日が最後ね」
「え」
思わずサワーを噴き出すオレに、追い打ちがかかった。
「来月、結婚することになったんだー。外資系のサラリーマンなんだよ。いいでしょー。お店も今月で辞めるの。今の仕事のことは秘」
しばらくは二の句が継げず、やっとのことで声を絞り出した。
「で、でも沙里奈ちゃん、オ、オレのことは…?楽しいって・・」
「え?もしかして室田さん、沙里奈の事を本気で好きだったとか言うわけじゃないでしょうね?やめてよ」
もはや何も言えない。オレは真っ赤な顔でうなずくことしかできなかった。
「ヤダー、ウソでしょ?そりゃ、いろいろとプレゼントを買ってくれるのだけは、楽しかったわよ。でもねー。アハハハハハ」
そこまで大笑いされたら、恨めしい視線も送りたくなる。ところが、それかまた彼女の堪に触わったようだ。
「ちょっとーその顔なによー気色悪いー」
怒って店を出ていく彼女。最悪だった。
次の朝、目が覚めると、死にたいような気分がドッと襲ってきた。あんなことを言われたのに、まだ未練の気持ちが残っている自分に吐き気さえ覚える。テーブルに無造作に置かれた彼女の名刺を何気に手に取ってみた。
表には店名と「沙里奈」の文字。裏返すと「また来てネ」と書かれた下にメールアドレス。番号はない。
そういえば、オレは番号どころか、彼女の本名すら知らなかったのだ。情けなさすぎて、もはや涙すら出てこなかった。
このエロ画像で迫ればいいなりになるのでは・・
傷の癒えないまま部屋に引きこもり3カ月。朝から晩までインターネットを巡回するだけの毎日を送っていたある日、興味深いニュースに遭遇した。
ネット博物館が登場
なんじゃこりゃ、と詳細を読み進めると、検索エンジンに似た外見のサイトが現れた。これがネットの博物館ことらしい。なんでも1996年から現在まで、計100億以上ものサイトデータを保管しており、ネットで最大規模の博物館を目指す、驚異のデータベースなんだとか。
つまり、サイトを作った本人が消したつもりのデータも、ここを探せば見つかるかもしれないというわけだ。と、そこまで読んでふと思った。ここって、沙里奈の店のサイトも保存してるんだろうか・・。
深い考えがあったわけじゃない。性能を試すのに、ちょうどよいサンプルだと思っただけである。当然ながら、今ある本物の店のサイトに、沙里奈の写真が残されているはずはない。だが、3カ月前のデータを探れは…。果たして、予想どうりだった。
「沙里奈(21)当店の人気ナンバーワンです」
パソコンの画面に、かつて店で働いていたころの沙里奈か微笑んでいた。くそー。途端に愛憎半ばした思いがこみあげてくる。そう一いえば、あの女、こんなこともいってたっけ。
「仕事のことは秘密にしておきたいんだー」
オレの頭を稲妻が駆け抜けたのはそのときだった。自分の過去を隠したい女にとって、このデータの持つ意味は。再びしつこく「WaybackMachine」で検索をかける。と、出るわ出るわ。客の上にまたがってサービスしている姿やら、股間にかがみこんで奉仕している画像。チンコをロに含んだままのアップなんてのもある。さすが売れっ子風俗嬢だっただけのことはあるが、やっぱりイイ女だ・・
プライドもそっちのけで、彼女のエロ画像を見ながらムスコをシゴき終えると、頭が鮮明になった。これをネタに迫れば、オレの言いなりになるんじゃないか。以前は適わぬ夢に終わった沙里奈の肉体を拝めるかもしれないし、なによりも彼女が慌てふためく姿を見てみたい。オレは沙里奈の居場所を探し出す決心を固めた。
住所はプロバイダから聞き出せるハズ
当面の目標は沙里奈の本名、および現住所である。手がかりは名刺にあったメールアトレスだけだ。まずは、アドレスがまだ使われているかを確認せにゃなるまい。フリーメアドで送り元を偽装して空メールを送信。エラーは返って来ない。よし、まだ生きてるぞ。さてどうするか?
オレが実行したのは、ずばり、プロバイダにアルバイトとして潜り込むという大胆な作戦だ。「そんな都合よく採用されるのか?」と思うかもしれないが、プロバイダはサーバにトラブルが起きれば昼夜を間わずかり出される重労働。
人材は常に不足しており、オレのようにちょっとパソコンに詳しい人間なら即採用なのだ。もはやストー力ーであることは十分承知している。しかし、一度暴走した気持ちは、どうにも止められない。あの女の泣き顔でも見てやらないことには、ケリがつかないのだ。
一度内部に潜り込んでしまえばあとは楽勝だった。深夜勤務の際に管理者のマシンを起動しただけで、顧客のデータベースをすべて見ることができてしまったぐらいだ。甘い。セキュリティが甘すぎるぞ、弱小ブロバイダ。大成功に気をよくしながら、数百件の名簿をひたすらスクロールさせること40分…。あったー
御名前御住所
ナカムラ●●コ 東京都●●区●●2-31
心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。プロバイダにある住所は、本人確認が必要な契約書のやり取りをする都合上、沙里奈か住んでいるのはほぼ確実。引っ越したのに住所変更を届けていない最悪のケースもあり得るが、それでも現地に行ってみりゃ手がかりが見つかるだろう。
庭付き1戸建てからスッビンの彼女が出てきた
翌日は朝からアイテムのチェツクに余念がなかった。沙里奈に会えると想定して、住所のメモと例の画像をノートパソコンに移す。ついでに、昨日盗んだパスワードで、メールを全てダウンロード。まあ、なんかの役に立つだろう。目標の住所は、駅からなんの変哲もない住宅街を10分も歩くと簡単に見つかった。
……って、庭付き1建てかよ。実家か。それとも外資系ってのが、よっぽど稼いでるのか。塀ごしに中を覗き込むと、リピングルームで何かが動く気配がある。誰かいるらしい。
ほどなくして、玄関に動きがあった。家の中から出てくる黒髪の女性は、化粧っ気の無い顔に、Tシャツにジーンズ。ん、誰だあの地味な女?が、よく観察すると、やや上にめくれた唇とツンと尖った鼻先に面影がある。
うわ、化粧を落とすとあんな顔だったのか。電柱の影で驚くオレに気づいた様子もなく、沙里奈が目の前を通り過ぎて行く。尾行スタートー
5分ほど歩きチェーン経営の力フエへ。座席に着き、携帯を取り出してメールを打ち始める。しばらく居座りそうな空気だ。チャーンスーコーヒーでも買って、真後ろの座席に陣取ってやれ。お久しぶりな沙里奈の顔をチラチラと盗み見ていると、トン底に落とされたときの気持ちがメラメラと復活してきた。
うーん、ホントはいきなり目の前に登場するつもりだったけと計画変更。ちょっとイタズラさせてもらうとするか。ノートパソコンを起動させて、彼女のメールにあった署名かり携帯メアドをチェック。手始めに、携帯に例の画像を送りつけてやろう。せいぜい驚きやがれ。
まもなく沙里奈は液晶を覗き込むなり息を飲んで立ち上がり、店内をキョロキョロ見渡し始めた。ククク。ずいぶん、わかりやすい動揺ぶりだねえ。噛みしめつつ、ダメ押しでさらに2、3枚を送信。あら、今度は顔色が真っ青になってやんの。こりゃあオモロいわ。んじゃ、次行ってみようー
まずはべタな文面を心がけてコイツはどうだ。
バラされたくなきゃ、言う通りにしろ。いいな?
反応は…と、プブプー液晶に向かって一生懸命おじぎしてやがるよー
『イイ子だ。ブラを外してテーブルの上に置け』
沙里奈が一瞬ギョッとした表情を浮かべる。やがて両手を背中に回してホックを外し、右ソデかりブラを抜く。バカだねえ。こんな指示を出すなんて、犯人は近くにいるに決まっているでしように。そこまで頭か回らないもんかねえ。
『Tシャツの下から自分の胸に触われ』周囲を軽く見回し、言われたとおり右手を胸にやる。
「そのまま愛撫しろ」
そうそう、そうやってゆっくりと胸をまさぐればいいんだ。お?心なしか吐息がうなったような気もするぞ。もっと気持ちよくなりたいって?OKOK
「手で乳首をいじり、左手はジーンズの中へ入れろ」
すぐに指で乳頭をつまみ、ジーンズのボタンを外すと股間を刺激するかのように手を大きく上下。・・うてヤバイっ。ムスコが反応し始めてきちゃったぞ。くー
セクハラショーはここらで終了。いよいよ仕上げといくか。オレはノートパソコンに例の画像をすべて表示させ、おもむろに彼女の前に置いた。さあたっぷりとご覧あれ。そのときの沙里奈の表情をとう表現すればいいのだろう。
記憶から消し去ったはずの写真が、いきなりフルセットで現れたんだもんな。さすがに凍るよなあ。フリーズした彼女が、目の前の人間の存在に気つくまでに何秒かかっただろう。恐る恐る顔を上げ、犯人を確認しようとするその怯えた視線で。そうだ。その表情が見たかったんだよ。
目が合った沙里奈は「あっ」と小さな叫びを漏らした。ありがたくも覚えてくれていたらしい。
「まあ、もう特に説明する必要はないよね。何をしてくれるのかな?」
「・・・……」
ある程度の状況はつかめたらしい。気丈にもオレをにらみつけ始めた。
「うーん、そんな怖い顔されてもどうしよもないなあ。あ、そうだ。なんなら、全画像を旦那どころか世界中に一斉送信するって方法もあるけど?」
「・・・・・・・・・……さい」
「えなんか言った?」「ごめんなさいー」
頬をボロボロと涙がこぼれ落ちそう。可哀そうな気もするけど、初志貫徹。最後まで行かしてもらうよ。
「ここで泣くのもなんだから、どこか休めるところに行こうか?」
沙里奈は力無くコクリとうなずいた。
★オレはその後、ヒマができるたびに、画像をチラつかせては沙里奈を呼び出している。彼女の結婚生活が末永く続くことを祈るのみだ。