女性とお近づきになる古典的なやり口として〈恋愛の相談相手になる〉といつものがある。女の心理とは不思議なもので、恋愛絡みの問題が生じた途端、心にスキを作る。そこを優しくつつき、相手に信頼と親しみを抱かせる。間違ってない。大いに試す価値ありだ。皆さんはおっしゃるかもしれない。オマ工に言われるまでもなく、そんなことは百も承知。けど、都合よく恋に悩む女など見つからない、と。けど、これが見つかるんですね。行くべきところに行けば、簡単に。
オレと女を残しマスターは出ていった
今年2月のある晩、東京は高円寺で、ぶらりー軒のバーに入った。いわゆる、一見の客である。店は力ウンター席が8つだけのかなり狭い造りで、先客は若い女のコがー人だけ。ワケは知らんがシクシク泣いており、歳のころ40前後のマスターがボソボソと慰めていた。暗い。看板のロックバーの文字に、さぞ楽しげな場所と期待して入ればこの有様。えらい出鼻のくじかれ方である。たまらんなあ、一杯飲んだらスグ出よ。
しかし、そういっときに限って、なかなかきっかけが掴めない。力ウンター越しに、やたらとマスターが話しかけてくるのだ。
「お初だね。来てくれてありがとうー」
「は、はあ」
「このコさあ、ウチの常連さんなんだけど、昨日彼氏に振られちゃって。すごーく落ち込んでんの」
うなだれる女のコを指さし、マスターが言う。だからどうしたの。そもそもバーにー人でやってくる客なんて、大半が何かしら他人に話を聞いてもらいたがってるんだよ。殊更に言うほどのもんじゃないと思うけどなあ。
「ミ力ちゃん、あんな野郎だけが男じゃないよ。もっといい男が世間にはいっぱいいるんだから。ね、お客さん」
「えっあ、ああそうね。うん大丈夫、いっぱいいるよ」
「そうだ、お客さんいいこと言うなあ。な、わかったろ、ミ力ちゃん。この人がミカちゃんの本当の相手なのかも知れないんだぜい。じゃあちょっとオレ、外で電話してくるから、あと4649」
マスターは一方的にまくしたて、ぷいっと出口へ消えていく。ナンだ、ナンなんだ、あのオッサンは。しばらく待ってみたものの、マスターが戻ってくる気配はない。ジュルジュルジュルジュル・・。シーンとした店内に、女の鼻水をすする音が響きわたる。あー耐えられん。
「ねえ。あの人ってさ、いつもああなの?」
「・うん、グズグス。マスターのくせによく客を置き去りにして、飲みに行くんだよ。ジュルル」
「ダメじゃん」「そう、ダメダメ工ー」
これまでの陰畿な表情とうってかわり、コロコロと笑うミ力。あれっあれあれっキミ、なんか力ワイクないっ突然だけどボクちゃん、キミとメイクラブしたくなっちゃったみたい。
「だいぶ元気になったっマスター帰ってこないし、一緒にココ出ようよ」
「うん、そうしよっか」
30分後。オレたちはバーから徒歩数分の彼女のアパートでケムリが出るほどハメまくった。ミ力とのHはラッキーではなかった
あの晩、ヤレたのは単なるラッキー。たまたまマスターが出ていったから。最初はそう信じていた。ところがその後、再び店を訪ねたオレは、マスターから信じられない話を聞く。
「おう、あの日は助かったよ。こめんな。ミ力ちゃん、押しつけちゃって」
「押しつけたっ」
意味がわからん。まるで、ワザとオレたちを2人きりにしたみたいじゃん。
「そうだよ。客があんな状態のときはすこくウザいんだよね、ひつこくて」
ビールをグビクビやりながら、彼は語り出した。バーには悩みを内に秘めた客が多い。特に若い女性には、マスターを心の頼りとする者が多く、ひどいときは店の定休日に自宅にまで押し掛け、話し込んでいくケースもあるという。うわ、すげー。つーかあんた、オイシすぎじゃん。
「客商売だし、そう邪険にもできないだろ。だから、ついついキミにあとの面倒を任せちゃったワケ」
ってことは何か。客の女のコがややこしい話を始めたら、決まって近くにいる男に相談役をゆずり、自分は蚊帳の外ヘトンズラをかますってか。男のスケべ心を計算に入れての確信犯的行動ってか。いや素晴らしいっー理由はどうであれ、普通、望んでもなかなかありつけぬおオイシイ状況をせっせと他人に提供してくれるとは、素晴らしすぎだ。マスター、これから毎週、いや毎日でも来ますんで、一つよろしく。
★「そんな男を思い続けるより、オレと付き合ってみなよ」
「そいつはきっとキミのことがスキじゃないんだよ。オレが彼氏だったらそんな辛い思いはさせないけどな」臭いセリフを吐きつつ、この4カ月でHした女が3人。