出会い口説きALLOK

デキル男のためのライフスタイルマガジンです。裏モノJAPAN監修の出会いや口説きに体当たりで挑戦したブログです。

ビジュアル系のバンドマンになれば誰でもモテモテ伝説の真偽

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無邪気な少年時代、勉学に明け暮れた青春の日々、そして編集者としての年月。辛く悲しい出来事も数あれど、周囲の人々の助けにより大過なく過ごせたことを思えば、これはこれで満足すべき人生前半戦だったといえよう。ならば、心の中にくすぶり続けるこの寂しさはいったい何なのか。未だ充たされぬ乾いた思いはどこから来るのか。答は1つ。私は生まれてこの方、女性にキャーキャーいわれた経験が絶無なのである。

勘違いしないでほしい。なにも、恋心を告げられたことがないとか、デートしたことがないとか、対価を払わずにセックスしたことがないとか、そういうことをいっているのではない。

キャーキャー言われるとはつまり黄色いとも形容される、あの独特の声援を受けることであり、道を歩けば手製のクッキーや花を差し出されることであり、望んでもいないのに電話番号を教えられることである。モテモテここに極まれりといった状態、その現場にただの一度も身を置いたことのない人生なんて幸福と呼べるのか。今後、たとえ莫大な大金を手にしたところで、空虚感は常につきまとうに違いない。
中田、松坂、キムタクついでに中居クン…。うらやましいなあと思う。いや、最近ではうらやむのもバカバカしくて、彼らは住む世界が違うんだと無理矢理思い込もうとする自分がいる。どうせいまさら努力したところでイタリアのサッカーチームやプロ球団に招かれるわけもない。やはり私を含む世の大多数の男はモテモテの夢ゲあきらめ、人並の生活に満足するしかないのである。ああ、悲しきかな悲しきかな、我が人生。
しかし世間を見回してみると、容姿に優れているでも、特殊技能に恵まれているわけでもないのに、なぜかモテまくっている男たちがいることに気づく。ヴィジュアル系バンドの連中だ。あれのいったいどこいいんでしょうか、みなさん。ヴィジュアルとは名ばかり、彼らが二枚目でもなんでもないことは周知の事実である。

いや、実際には男前がいるのかも知れんが、周囲から伺えるのは、派手な化粧を施した神経質そうな表情のみ。要するに真のルックスは求められていないのだ。ならば音楽はと言えば、どれもこれも金太郎飴のようなもんで、ラブだの祈りだのジェラシーだの、とにかくそのようなことを騒々しい演奏に乗せて叫んでいるに過ぎない。あれぐらいなら自分でもできるんじゃないか、私は常々そう思っていた。

楽器はできなくとも、ボーカルならどうとでもゴマかせるし、差恥心さえかなぐり捨ててしまえばそれなりの出で立ちになるはず。野球やサッカーで活躍できない以上、もうモテモテになるためにはこれしか方法がないのではないか。そんなふうに考えていたのだ。そんな私が、愛読者に格好の人物がいることを知ったのはこの春のこと。

彼、東郷君(25才)は、数年前まで自らヴィジュアルバンドのボーカルを務め、現在では、地元甲府を中心にインディーズバンドやアイドルタレントをプロデュースしている男だ。彼がなんとかしてくれるんじゃないか。わざわざメンバーを集めて練習するような面倒は御免被るが、彼ならオイシイ部分だけを味あわせてくれるんじゃないか。そんな期待の元、私は東郷君に計画を持ちかけた。

「ちょっとお願いがあるんだ」ヴィジュアル系になりたいんだけど、いかがなものか。ソレっぽく見えるようにプロデュースしてもらえないものか。というのも実はモテモテ体験をしてみたいと考えており……。
「なるほど。確かにヴィジュアルやってればモテますよ」

「でしょ?そこでなんとかオレもさあ・・」

ムシのいい相談に、彼はすぐさま快諾の返事をよこした。

「いいっすねえ。オレそういうの好きなんで、すぐに計画たててみますよ」
9月23日、甲府。テツジン、始動

数日後、東郷君よりアイディアが伝れた。これから新たにメンバーを募集していたのでは時間がかかってしょうがない。そこで、現在彼がプロデュースする「セレスト・ビス」というバンドの特別メンバーとしてライブに出演するのはどうだろうか。

「うん、いいねえ」「東京の大物アーティストがやってきたことにして」

「なるほどね。で、それでモテる?モテるの?」

「大丈夫です。打ち上げも準備しますから」

彼日く、この手のアマチュアバンドは、ライブ終了後にファンのコを交えた打ち上げを実施することが多く、モテモテ状態になるのはまさにそのときだという。ステージと客席では距離がありすぎるが、打ち上げとなれば女のコたちもお目当てのバンドマンに気軽に接することができる。

つまりその場で軽く会話を交わして、いわゆる「お持ち帰り」をしてしまえばいいのである。現に彼の現役時代もこのパターンで数え切れないほどの女をモノにしてきたそうだ。

「なるほど、それは2、3人まとめて持ち帰ったりも可能なわけ?」

「そりやいくらでもいいですよ」「あ、そ、スフフフ、そうなんだ」

当初より、キャーキャーだけでなく、ファンからの肉体提供をもモテモテ度の指針として位置づけていた私としては、3P4Pとは願ったりである。

「で、佐藤さん、名前はどうしましょう」

「名前?」「ええ、xならトシとかョシキとか、みんな呼び名があるじゃないですか」「あ、そうか。うーん、じゃあテツジンってのはどう?」「はい?テツジンですか」「そう、テツジン」「うん、わかりました」

かくして私テツジンは、「セレスト・ビス」の特別メンバーとなり、土曜日、甲府市内のライブハウスに出演することになった。
1000枚のチラシが甲府市内にパラまかれた

一緒にステージに立つメンバーとの顔合わせ、及び写真入りチラシ作成のため、私は甲府を訪れた。「セレスト・ビス」という舌を噛みそうな名のバンドメンバーは、ボーカルのレイ君と、ギターのケン君の2人。ま、どこにでもいそうな20前半である。まだ顔にニキビ跡の残るこの2人ですらモテモテ人生を謳歌しているとは、やはりヴィジュアル系の力は絶大なのか。

「ねえ、レイ君。やっぱヤリまくりなの」

探りを入れようと、長髪にサングラスの彼に尋ねてみる。

「ぽくはあんまりそういうの興味ないんで」生意気な口をきく男である。

「ケン君はどうなのよ。ヤリまくってんでしょ。ククク、いいなあ」

「まあ、ほどほどですよ」「あ、そう」

彼ら2人、20才そこそこにして、もう女なんてどうでもいいぜ的な余裕しゃくしゃくぶり。憎たらしいな、まったく。ただ2人によれば、ヤリまくつているかどうかは別としても、バンドをやる前に比べて圧倒的にモテ始めたことは事実らしく、市内を歩いていてファンに呼び止められることもしばしばだという。

「それじゃあ、プロモ用の写真を撮りましょう。」

東郷君の手により、私は眉毛を剃られ、頬にファンデーション、唇には口紅を塗られていった。

「お、なかなかいいですねえ。うん、似合いますよ」ホンマかいよと鏡を見ると、なかなか様になっておるじゃないの。
ルナシーとかってこんなんだったよな。この後、衣装を身にまとって写真撮影。それを元に作成したプロモ用チラシ1千枚が、市内の路上やレコード店でバラまかれ、地元の情報誌には「大物アーティスト登場」と銘打たれた告知広告が掲載される運びとなった。
演劇までやらにゃならんの
東郷君がレイ君ケン君を率いて会社にやってきた。私の歌う曲が出来上がったのだ。「テツジンさんには1人でこの曲を歌ってもらいます」

テープをラジカセに入れると、キーボードが流れ出した。荘厳かつ神聖かつメランコリック、とでも言おうか。教会などで流れる葬送曲のような雰囲気だ

「ほう、いい感じだね」「ええ、これはテツジンさんが登場するときの意楽です」

特別メンバーのテツジンは大物アーティストであるからして、重々しい意楽に乗って登場しカリスマ感を与えねばならない。この男、ちゃんと心得ている。長いキーボードが止み、リズムボックスがおもむろに8ビートを刻み始めた。

いよいよ私の歌う曲「テツジンの世界」だ。と、ささやくような声でバックコーラスが割り込んできた。『テツ・ジン、テツ・ジン、テツ・ジン』ん?

「ちょっと、これはおかしくないかなあ」「いや、大丈夫ですよ」

少々おマヌケ生別奏に引き続き、歌が始まる。

「月遠い街が暗く深くたたずむ残された亜夢のような静けさ許されざる罪を犯すしもべの閉ざされた悪夢のような鳴勲」

その後も大仰な歌詞がとめどなく続く。「これ、どういう意味なの」

「意味はないっすよ」「あ、そう。この“透色の罪“ってのは」

「あ、そんなの適当です」

ヴィジュアル系なんて雰囲気だけ。それっぽい言葉がまぶしてあれば、何を歌っていようがどうでもいい。そんな確信を抱かせるに十分な彼の説明である。曲は3分ほどで終了。使われたコードは3つだけなので簡単に歌えそうだ。

「オッケー、これを歌えばいいんだね」

「ええ。で、歌が終わったところで、ちょっとした劇をやってもらいます」「劇?」「ええ、劇です。最近はこういうのがウケるんですよ」

ヴィジュアル系バンドは、いかに独特の世界にファンを引き込むかが勝負であり、それには歌や演奏だけでなく演劇の要素を加えるのも効果的だという。有名どころでは、マリスミゼルなるグループがフイブ中に劇を取り入れているそうな。彼が用意した台本によれば、劇の設定は、堕天使の集うェトルワ・セルクーユの支配者であるテツジンが大事にしていたオルゴールをレイ君が少年に奪われ、ああだこうだ---、・・。

「何だよ、これは」
「あんまり考んないでください。で、テツジンさんの台詞は3つです。まずはこれですね。」

「オマェか?私の遣いの者から聞いたのだが、ある少年にあのオルゴールを渡したそうだ」

「これ、オレが一」言うの?

「ええ、そうです。ちょっとやってみましょうか。お前かー私の遣いの者から聞いたのだが」「……」「はい、やってください」「お前かー私の遣いの者から聞いたが・・こコ遅いますねえ。もっと手振りを加えて」「こう?己」「あ、いいですねえ」

「こうね?」まさかこの年齢になって人前で寸劇を披露することになろうとは。モテモテの道は険しい。
前奏曲が流れる中観客の待つステージへ
悪夢、しもべ、鳴動、背徳、東縛、透色-・・。

メロディーは単調でも、普段使ったことのない単語がこれだけあると暗記するのも苦労である。さらに、オルゴール云々の台詞や振り付けとなると、どこで練習すればいいのやら。本番当日までのおよそ1カ月、私は何度もテープを聞き直し、口の中でモゴモゴする毎日を送った。もちろん仕事などロクにしていない。そしていよいよライブ当日。「モテモテっすよ。うらやましいなあ」

新宿発のあずさ車内で、カメラマンとして同行の編集部・武田が羨望の眼差しを向けてくる。以前の私も、こやつ同様、自らを嘆きつつ、スポットライトを浴びる者に対して嫉妬と羨望の入り混じった感情を抱いていた。何事も一歩足を踏み出すことだよ、心の中で私はそうつぶやく。

甲府駅に着いた我々は、楽屋として準備されたライブ会場下のカラオケボックスへ。スケジュール表によれば、本日はメインの我々以外に地元の2バンドが出演することになっているらしい。客寄せパンダとして集めておいたのだ。むろん連中はライブの真の目的を知らない。廊下ですれ違った他バンドのメンバーに向かい、

「おい、こちらテツジンさんだ。挨拶しろよ」

あまり知られていないが、ヴィジュアルパンドの世界は体育会を思わせるタテ社会である。先輩は絶対的存在、後輩には服従が義務づけられている。

「あ、おはようざいます」「おはよう」

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調子に乗って、東郷君がデタラメを並べる。

「昔、東のx、西のフラワーって言われてたの知ってるか」

「いや、知らないです」

「テツジンさんはそのフラワーの関係でいろいろやってたんだよ」

「え、そうなんですかーよ、よろしくお願いします」

深々とお辞儀して両手を差し出す少年たち。その手を握り返しながら私も

「ごくろうさん」とねぎらいの言葉をかける。

敵(ファン)を欺くにはまず味方(他バンド)から。これは打ち上げの席において、私が誰よりも高い地位にあることをファンのコたちに見せつけるためである。彼女らは権威を好む。全バンドマンたちにかしずかれる男を見れば、

「まあ、そんなに偉い方なのね、抱かれてみたいわ」と錯覚も起こそうというものだ。軽いリハーサルを終え楽屋で化粧をしているところに、カメラを抱えた武田が入ってきた。ヤツによれば、すでに入り口付近は開場を待つ若い女で溢れ返っているらしい。
「スゴイっすよ、いっばい来てますよ」

その言葉を聞き、突如言いようのない緊張感が襲ってくる。いくら田舎のライブハウスとはいえ、中には目の肥えた意楽ファンが混じっているかもしれない。ロクに歌詞すら覚えていないこんな状態で大丈夫なのか。控え室から会場へ歩みを進めるにつれ、逃げ出したい衝動が膨らんでゆく。

「それじゃ、テツジンさん、行きますー」

合図と共に会場内にあのキーボード意が流れ、客席がザワつき始める。小道具のろうそくを左手に持った私は、ゆっくりした足どりでステージへと向かった。
じっと耳を澄ますグルーピーたち
ステージ上から見るに、客は150人ほどだろうか。9割以上を若い女性が占めている。純な眼差しでこちらを見つめる彼女ら。かすかに聞こえてくるざわざわは、大スター故に漏れるタメ息か。荘厳な音楽が終わり、スポットライトが私を照らす。

『テツジンの世界前奏スタート。テツ・ジン、テツ・ジン、テツ・ジン』

同時に、向かって左側の客席より、かすかな笑いが起きた。やはりこのかけ声はまずかったか。が、ここで照れ笑いなんぞを浮かべていてはテツジン様の威厳が台無しである。そんな笑いなど聞こえぬような素振りで、私はマイクを握りしめた。
「街が、暗く深くたたずむー」

この1カ月、何度も何度も繰り返し口ずさみ、それでもなお完壁には暗記できなかった歌詞が、意外とスラスラ出てくる。もう先ほどまでの緊張感は道えていた。

「透色の罪がまた揺れて消えるー」

曲調がハードでないため、頭を振ったり拳かかざしたりする客はいない。みな一様に、押し黙ってじつと耳を澄ましている。大物アーティスト、テツジン様の歌声をじっと。笑える。テツジンの世界が終わり、レイとケンがステージに。ここからは演劇だ。

「ああ、テツジン様ー」「オマエか?私の遺いの者」

静かなライブハウスに、レイ君と私のくさい台詞が響き渡る。クスリともせず、それを見つめる甲府のグルーピーたち。おかしな世界があるもんだ。寸劇が終了し、すべての役割を終えた私はドラムセット横へ移動。レイとケンの演奏が始まった。若いくせに2人は堂々としたもので、身振り手振りを加えて独特の世界を演出する。私はその後ろでろうそくを持ったまま立ち続け、眼球だけをせわしなく動かしながら客席の女のコを物色していた。
「あの、テツジンさんサインください」
「いやー、なかなか良かったですよ。声も出てたし」

控え室に戻った私を東郷君が出迎える。
「あ、そう?まあ、あんなもんかな」「ええ、あれだけ歌えれば寸分ですよ」

「へへへ、そう?」

ライブハウスのオーナーによれば、今日のライブは甲斐バンドが以前出演したときの動員記録を塗り替えたとのことだ。テツジン、あの甲斐バンドを越える。その事実に鼻孔が膨らむ。しかし妬みからか、横から武田がチャチャを入れてくる。

「佐藤さん、オレ笑いこらえるのに必死でしたよ」

「何が?」「ずっと後ろで立ってたじゃないすか。仏像みたいでしたよ」

「アホ、あれがテツジンの役割やないか」「あんなのでモテますかね」

「いけるいける。まあ打ち上げを見とけよ」

化粧を落としながら、私はご機嫌だった。緊張からの解放、心地よい充足感、そしてこれから訪れる至福の時。日常の生活では決して体験できないであろうカタルシスが全身を襲う。

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3バンドすべての演奏が終わり、タ方の5時。そろそろ外に出ようとカラオケボックスを後にすると、表の商店街で出待ちの女のコたちがわんさか群れをなしているのが見えた。「

ヤバイっすねえ。モミクチャにされますよ」

「ハハ、どうしよっかなあ」

しかし、意を決して表に出ても、みな遠巻きに眺めているだけである。山梨のコたちは控え目なのか、恥ずかしがり屋さんばかりなのか。ざっと見た感じ、1人きりで来ているコはおらず、みな2、3人のグループになって道路の端に固まっている。会場の暗がりでも察しはついていたが、ほとんどが10代半ばだ。

あ、テツジン様よ、あなた話しかけなさい、いやよワタシ恥ずかしいもん、何よさっきまで騒いでたじゃない。そんな会話が聞こえてくるようだ。しょうがなく、わざと着かず離れずの位置に立ってタバコをふかしてみる。と、ようやく1人の高校生らしきコが手帳を持ってやってきた。

「あの、サインください」

うつむき加減に頬を赤らめている。来たか来たか、こういうのを待っていたんだよ。「うん、いいよ」受け取ったボールペンでゆっくりと書き込む。さっき楽屋で考えたサインだ。

「キミ、名は?」「あ、ユカリです」「ユカリちゃんね。はい、ユカリちゃんへ、と」ありがとうございますとサインを受け取った彼女は、友達の輪の中へ戻っていった。可愛いものである。さて、お次は誰が来るのかな。サインぐらいいくらでもしてやりまっせ。ニヤつきを抑えながらクールに脚を組んで立っていると、全度はこれまた高校生らしきコが握手をせがんできた。

「あ、どうもありがとね」なんて言葉をかけつつ、しかと握手。ああ、女子高生の柔らかな手を握るなんていつ以来だろう。もっと来いよ、どこでも握ってやりまっせ。
しかし攻勢はここまで。他の連中は、メイクを落とした私がテツジン様であることに気づいていないのか、あるいは畏れ多いのか、まったく近づいてこないのだ。レイやケン、そして他のバンドメンバーが彼女らの輪の中で談笑しているのを、私は遠くから眺めていた。ザコはいいよなあ。
服装が明らかに違うが威厳は保てるのか
待望の打ち上げは近くの居酒屋で行われた。出席者は、ライブに出演したメンバーと、そのファンのコ総勢30人。とりあえずはレイ君ケン君を両脇にしたがえ、酌をさせている。

「テツジンさん、どうもお疲れさまでしたー」

この様子を見て、ファンは気づくだろう。この場での権力者が誰なのかを。そして誰に抱かれることが誇りとなるのかを。

「テツジンさん、ありがとうございました」

大物ぶりを吹き込まれたバンドの面々が、次々とビールを注ぎにやってくる。

「お、ご苦労さん」「いやー、やっぱ存在感ありましたよ」「そう?」

「これからも指導お願いします」「うん、そうだね。君たちいい音出してたよ、うん」「ありがとうございます」

ここまで低姿勢になられると、いい気分を通り越して申し訳なくもなってくる。ただのオッサンですよ、ホントは。
別テーブルでは、場をわきまえたファンたちが物欲しげな目でこちらを見て……いない。彼女らは彼女らでワイワイ楽しそうだ。ファン同士の交流とでも言いましょうか、牽制のし合いとでも言いましょうか。さて、どれを持って帰ろうか。問題はほとんど全員が女子学生なことである。プライベートならいざ知らず、企画でちょっかいを出すわけにはいかない。となると狙いは、すでに20才を越えているであろう、隅のほうに陣取った3人組グループとなる。彼女らをまとめて面倒見ますか。最初はバンドマンとファンにはっきり二分されていた酒席も、時間が経つにつれ男女入り乱れての合コン状態となっていった。

ところが、女性陣に対し露骨に迫っていく者は皆無で、次回ライブのチケットを配ったり、疲れのせいで寝転んだりと、ギラギラした素振りが見られない。やはり女なんてどうでもいいっす的精神状態なのか、連中は。もったいない。それにしても、この場における私の浮きようといったらどうだろう。

他の男は全員、肩までかかる長髪を茶色や金に染め、黒シャツにサングラスという出で立ちなのに対し、私は山登りに出かけるようなチェックシャツに、頭髪は寝グセでボウボウ。とても同じステージを踏んだ同士とは思えない。ライブではなく打ち上げこそが本番だと認識していたにも関わらず、こいつはちょっとマズかったか。
格下のはずの少年に3人組をさらわれる
いくら待っても3人組はそばに寄ってこない。やはりあまりに大物となると、尻込んでしまうのだろうか。本意ではないが、こちらからさりげなく近づいてあげるか。

「どうもテツジンです」「あ、初めまして」「うん、今日はありがとうね」「……」

どこまで照れ屋さんなのか、合コンで気のない女に話しかけたときのような冷たい間が生まれる。その様子を察知してか、小判鮫のように張り付いていた武田がすかさずフォロー。

「ほら、ろうそく持って後ろに立ってた人」「ああ、あの」「そうそう、あの人」「へえ」

ちょっと不愉快である。なんだ、その説明は。私だって歌ったし、劇も披露した。あの熱演を見てなかったのか、キミたち。しかし、そんなことを力説してはテツジン様のカリスマ性が薄れてしまう。ここはおとなしくしておこう。

「まあ、今日は久しぶりだったんで、あんまり歌わなかったけどね」

「へえ、そうなんですか」「うん」
せっかくこうしてそばに来てあげているのに。3P4P当たり前じゃなかったのかよ。3人組の態度が芳しくないため、私は標的を変更。ファンたちのそばに陣取り、彼女らによる甘い誘惑を待った。ところが、このコたちはこのコたちで、プリクラ交換やパラパラの教え合いなどに忙しく、すぐそばにいるスターに見向きもしない。いよいよあせってきた私は再びターゲットを変え、例の3人組をそばにはべらせてみたものの、名前、年齢、どこから来たのか、そんな質問をこちらから振ることでよつやく会話が成立するという体たらく。テツジンに対する好意はうかがえない。どうしたものか。あそこまで壮大な計画を立てておきながら、私はモテモテ人問になれぬのか。見ると、ずっとヘコヘコしていたバンドメンバーの少年たちがあの3人組を2次会へ連れて行く。

「テツジンさん、お疲れさまでしたー」「おう、お疲れさん」

最後まで威厳だけは保ってみたが、沸き起こる屈辱感に耐えきれず、私はその場にヘタリ込んでしまった。